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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)909号 判決

控訴人(被告) 株式会社日本興業銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 加藤一昶

同 大江忠

同 笠井翠

被控訴人(原告) 破産者B破産管財人X

右訴訟代理人弁護士 田原睦夫

同 清水正憲

同 河野理子

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金九一億八二〇四万二八一二円及びこれに対する平成三年八月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

当事者の主張は、次に削除、付加及び訂正するほか、原判決事実第二 当事者の主張(原判決三頁末行から同一六頁一〇行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一三頁五行目の「(危機否認及び故意否認に共通)」を削除し、同行の次に、行を改めて「1 控訴人の善意」を加え、同一五頁五行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「2 権利濫用

本件は、破産者によって三一二億円の担保ワリコーを詐取された債権者である控訴人が、そのことを知らないで、日を置かずして被詐取金額からみればその一部に相当する九七億円の担保を取得したに止まるものであって、詐害性を有するものではないところ、被控訴人の破産法七二条四号又は同条一号に基づく本件否認権の行使は、実質的には、破産財団が破産者の詐欺行為を奇貨として詐取金額三一二億円を不当に利得するものであるから、権利の濫用として容認されるべきではない。

3 相殺

控訴人は、破産者に対し、平成三年八月一五日到達の書面で、控訴人の破産者に対する貸金債権と、同年八月七日に控訴人が担保として受け入れた控訴人発行の利付興業債券「リッキー」額面一〇億円及び控訴人に対する自由金利型定期預金一三口額面合計五億三六一九万一九四六円とを、対当額で相殺する旨の意思表示をした。」

2  原判決一五頁七行目の「抗弁の事実中、」を「1 抗弁1の事実中、」と、同一六頁三行目の「生産性を持つ」を「生産性を有する」とそれぞれ改め、同一〇行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「2 同2は争う。破産者は、本件担保を供与しても、客観的には、平成三年七月二二日の時点に比べて、より不利益を受けたことになるわけではないが、それは控訴人がうかつにも同日にワリコー担保の差し換えに応じたために、自ら不利を招いたのであり、その不利の埋め合わせによる損失を他の破産債権者に被らせることを許さないというのも否認制度の趣旨であるから、控訴人の主張は失当である。

3  同3は争う。利付興業債券は、有価証券であるから発行者の控訴人がその占有を取得していない限り、相殺をしたとしても債券所持人に対抗できず、担保としてその占有を取得するまでは控訴人は相殺を期待できないものであって、相殺は、実質的には担保権実行としての意味しかもたず、本件のように、その担保供与につき否認権行使が認められる場合には、その相殺は無効である。

五 再抗弁

相殺の受働債権である自由金利型定期預金のうち、次の預金合計二億六一八一万五二一七円は、控訴人において破産者が危機的状況にあることを知って後に控訴人に預金させて取得したものであり、これらの定期預金を受働債権とする相殺は、他の債権者を出し抜く形で受働債権を取得し、実行されたものであるから、権利の濫用に該当し許されない。

口座番号 内訳番号 金額 預入日(平成三年)

(1)  〈省略〉 〈省略〉 一〇〇〇万円 七月三一日

(2)  〈省略〉 〈省略〉 一三九三万一三六一円 七月二九日

(3)  〈省略〉 〈省略〉 一億一〇一〇万九八二六円 七月三一日

(4)  〈省略〉 〈省略〉 一億二七七七万四〇三〇円 八月一日

六 再抗弁に対する認否

争う。相殺は、破産法一〇四条の制限に服する以外はなし得るものでり、本件相殺には、何ら権利の濫用に該当する事実は存在しない。」

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  被控訴人の請求に対する当裁判所の認定、判断は、次に付加、訂正するほか、原判決理由一ないし七(原判決一七頁四行目から同四四頁五行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一七頁六行目から七行目にかけての「第二一号証」の次に「、第三四号証」を加える。

2  原判決二一頁三行目の「第一九の1ないし4」を「第一九号証の1ないし4」と、同五行目の「第二七、第二八号証の各1、2」を「第二七号証の1、2、第二八号証の1ないし3」と同五行目から六行目にかけての「第三〇、第三二、第三三号証」を「第三〇号証、第三二ないし第三四号証」と、同二二頁九行目の「被告は破産者へ右ワリコーを返還し、それに換えて」を「破産者は控訴人に右ワリコーを返還し、控訴人はそれに換えて」と、同二三頁二行目及び同四行目から五行目にかけての「担保を解除をし」をいずれも「担保を解除し」と、同二五頁三行目の「定期預金を使って」を「定期預金を原資として」と、同五行目の「同日」を「同年七月二二日」と、同八行目の「同年八月九日振出の」を「振出日が同年八月九日の」とそれぞれ改める。

3  原判決三一頁五行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「控訴人は、もともと東信定期はつなぎ担保としてしか受け入れていなかったものであり、控訴人と破産者との間では、従前から、つなぎ担保でカバーされている被担保債権の弁済がなされなくなったことが確定した時点で、つなぎ担保を返還し、正規の担保と差し換えさせることとしていたものであり、前記(一)(3)の同年七月二二日の担保差し換えの合意においても、万一、八月一二日の返済ができないときは、東信定期の担保を解除し、元のワリコー担保あるいはそれに代わる相当の担保に戻す旨の約束が含まれていたとし、本件担保約束は、その義務に基づいてなされたものであると主張する。しかしながら、控訴人と破産者間において、平成三年四月一九日ころから、東信定期がつなぎ担保として差し入れられていたことは前記認定のとおりであるが、そのことから直ちに、同年七月二二日の担保差し換えの合意に右主張の趣旨が含まれていたものと解することはできないし、右合意に際して、控訴人と破産者との間で、控訴人主張のような約束がなされた事実を認めるに足りる証拠はないから、右主張は採用できない。

また、控訴人は、仮に、右担保差し換え合意に前記のような約束が含まれていないとしても、破産者としては、本来、真正な東信定期額面三〇〇億円との差し換えがなされて、初めて担保提供義務を履行したことになるのであるから、本件のように紙切れ以下の預金証書が差し入れられても、何ら担保提供義務が履行されたことにならないとし、破産者のワリコー額面三一二億円に代わる担保提供義務はいまだ履行されておらず、破産者は、引き続き同じ義務に基づく担保提供義務を負っていたことになるから、本件株式等の担保提供約束もまた当然に義務ある行為に該当するとし、しかも、本件では破産者が控訴人からワリコー担保を詐取したものと評価でき、このような場合、担保物であるワリコー原物の返還義務を負っており、その返還が不可能な場合には、それに代わる正当な担保を差し入れる義務があるものとも解されると主張する。しかしながら、控訴人の担当者において、同年七月三一日の破産者との本件担保約束が、東信定期が真正なものではないとし、その質入れがワリコー額面三一二億円に代わる担保設定義務の履行ではないとして破産者に成約するよう求め、破産者がこれに応じたというものではないことが明らかであって、控訴人がワリコー額面三一二億円の担保を解除して、そのワリコー債券を返還した行為が、破産者の詐欺に基づくものであるからといっても、当然にその解除行為が無効となるわけではなく、右ワリコーは、破産者の一般債権者の債権の引き当てとなる破産者の財産に復帰したことに変わりはなく、控訴人が、破産者に対し、不法行為に基づく損害賠償債権(この債権も破産債権となる。)を取得することは格別として、破産者が、控訴人に対し、当然に、右ワリコーの返還義務やこれに代わる担保設定義務を負うものではないというべきであるし、仮に、控訴人の主張のとおり、ワリコー額面三一二億円の代わり担保の供与義務の履行がなく、その履行義務を破産者が負っていたとしても、右義務は、当初の銀行取引約定に基づく抽象的、一般的な義務であって、破産法七二条四号にいう義務には該当しないというべきであるから、右控訴人の主張も採用することができない。」

4  原判決三二頁二行目の「抗弁について」を「抗弁1について」と、同四行目の「第二八号証の1、2」を「第二八号証の1ないし3」と、同五行目の「第三〇、第三二、第三三号証」を「第三〇号証、第三二ないし第三四号証」と、同七行目の「決済権限」を「決裁権限」と、同三五頁四行目「預金者名義」を「預金者名」とそれぞれ改める。

5  原判決三九頁八行目の「主張し、証人C、同Dの証言中にはこれに沿う証言部分が存するが、」を、次のとおり改める。

「主張する。そうして、その主張の裏付けとして、破産者の一連の担保差し換え要請に応じるため、控訴人内部で作成された平成三年八月五日付稟議書(甲二九)及び同月七日付稟議書(甲三〇)の、東信定期を三〇〇億円満額と評価している旨の記載が、控訴人が、同月八日の段階においても、同定期預金証書を真正なものと判断していたこと、及び前示認定の入金のないまま取引先企業二三社に対し預金証書を発行するという不祥事のあったa銀行が、同月五日に破産者から東信定期一五五億円を担保として受け入れていることから、当時、最も慎重にことを運ぶであろう同銀行でおいてすら右定期預金証書を真正なものとして疑わなかったためであるとし、これらのことをもって、控訴人が東信定期を真正ではないと疑うはずがないことの証左であるとし、また、破産者が別件の損害賠償請求事件(大阪地方裁判所平成五年(ワ)第八九五五号)の証人尋問において、「控訴人が破産者の資産内容がおかしいということを知ったのは、平成三年八月一〇日である。」と供述しているとし、その供述調書(乙三四)及び証人C、同Dの右控訴人主張に沿う証言部分を援用する。

しかしながら、前記各稟議書は、破産者の担当者であるDが起案し、個人営業班長のE、資金部長のCの確認を経て支店長が決裁するものであり(証人C)、その記載は、本件担保約束の関係者の手により作成されるものであることからして、客観的事実の証明に適するものとはいえないばかりか、右の段階に至っては、東信定期が架空預金ではないかとの疑念を持っていても、確証があったわけではなく、稟議書が内部文書とはいえ、現に破産者に対する刑事事件の捜査のための参考資料として大阪地方検察庁に任意提出されている(甲九の1、2、弁論の全趣旨)文書であることからして、ここに記載することが、被控訴人に不利な証拠を残す結果となる(否認の要件事実を証明する証拠資料となる。)ことに照らしても、右記載をもって、控訴人が当時においても、東信定期預金証書を真正なものと確信していたことの証左とみることはできないし、a銀行がこれを真正なものとして担保として受け入れていたとしても、そのことから、直ちに控訴人が東信定期を真正なものと確信していたことにはならないというべきである。また、別件損害賠償請求事件の証人尋問における破産者の供述は、控訴人代理人の誘導尋問によって得られただけのものであり、その供述全体を見ても、破産者において、破産者がF支店長に偽造定期のことを言ったのが八月一〇日であること、及びその際初めて控訴人が破産者の資産状態が危機に瀕していることを知ったという重要な事実を、供述者である破産者自らが明らかにしたとは全く読みとれないことからして、控訴人の右主張は、到底採用することができない。そうして、証人C、同Dの前記各証言部分は、」

6  原判決四〇頁五行目末尾の次に、次のとおり加える。

「なお、控訴人は、仮に、控訴人が破産者の資産状態が危機に瀕していることを察知していたならば、銀行実務の通例に従い、全面的な債権回収にかかるはずであるのに、右のとおり、漫然と株式等の担保提供を求めるということだけに終始していて、破産者からの全面的な債権回収の挙に出たのが同年八月一〇日になって初めてのことであり、そのことは、とりもなおさず控訴人が、破産者の危機的状況をその時点まで知らなかったことの証左である旨主張する。しかしながら、破産者は、Cが控訴人大阪支店資金部長に着任した平成三年三月当時、控訴人の株式二七〇万株を有する個人筆頭株主で、控訴人大阪支店の個人融資残高約千数百億円のうちの半分を超える九二〇億円ほどの取引があり、控訴人の債券であるワリコー約二八〇〇億円を有する特別な顧客であった(証人C、同D)ことに照らすと、そのような特別な顧客である破産者が債務超過で支払不能の状態にあることを察知した場合に、控訴人が、直ちに銀行実務の通例とされる債権の全面的な回収の拳に出なかったとしても、後記(8)のとおり、必ずしも不自然であるとはいえないから、控訴人の右主張は採用できない。」

7  原判決四一頁二行目の「認め難いこと」の次に「(なお、証人C、同Dは、控訴人が七月三一日に、つなぎ融資の二〇〇億円を返済したから、東信定期一五五億円を担保としてとっておく必要がなくなったが、破産者がその返還を八月五日でよいと言ったので、そのようにした旨供述するところ、この供述が真実を語るものであれば、破産者が架空預金の発覚を恐れていたとの控訴人主張と明らかに矛盾するものといえるものである。)」を加える。

8  原判決四二頁末行の次に、行を改めて次のとおり加える。

「右の点に関して、控訴人は、倒産の危機にある取引先に対する対応は金融機関にとっては極めて深刻かつ厳格になるものであり、危機状態であるとの疑いを持てば、そのような取引先に対する貸出しは、たとえ預金担保等で全額カバーされている場合であっても、絶対に応じることはあり得ず、また既存債務について、期限の利益を与える趣旨で手形貸付の切り換えをしたり、相殺原資となる三四〇二万円もの預金の払戻しに応じるはずがないと主張するが、前記認定のとおり破産者が控訴人の特別な顧客であった上、右預金払戻し当時においても、控訴人は、破産者の資産の全容を知っていたわけではなく、他の金融機関にある隠し預金や証券会社に預託してある有価証券等の破産者の資産を、破産者から任意に担保として提出させ、これを取得できる可能性がある限り、延命策をとったものとも考えられるのであるから、右主張は直ちに採用することができない。」

9  原判決四三頁三行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「七 抗弁2について

前記認定事実からすると、本件は、事後的、客観的に見れば、本件担保約束及び供与が、破産者に騙されてワリコー額面三一二億円を、偽の東信定期三〇〇億円と差し換えられた控訴人が、それによる被害の一部を回復しようとしたようにもみることができるが、そうだからといって、控訴人、破産者間の本件担保約束及び供与行為の詐害性が否定されることにはならないこと、本件否認権の行使は、破産者のした破産債権者間の平等に反する、破産者の義務に属しない行為を相対的に無効として、破産財団の回復をはかることを目的とするものであり、しかも本件は、控訴人が、平成三年七月二二日に破産者からの担保差し換えに応じたこと(これが破産者の詐欺に基づくものであるからといっても、その行為が当然に無効となるものではないことは前判示のとおりである。)に起因するものであることを併せ考えると、被控訴人のした本件否認権の行使が、権利の濫用に該当するものとはいえないから、控訴人の右主張は理由がないというべきである。

八 抗弁3について

乙第四六、第四七号証の各1、2と弁論の全趣旨によると、控訴人は、平成三年八月一五日現在、破産者に対し貸金債権合計四三七億七二一八万四〇三九円を有していたところ、破産者に対し、同日到達の書面で、控訴人の破産者に対する右貸金債権のうち三五六億一八六九万〇一二三円と、同年八月七日に控訴人が担保として受け入れた控訴人発行の利付興業債券元本一〇億円及び控訴人に対する自由金利型定期預金一三口額面合計五億三六一九万一九四六円を含む債務合計三五六億一八六九万〇一二三円とを、対当額で相殺する旨の意思表示をした事実が認められる。

しかしながら、右相殺の受働債権である利付興業債券は、有価証券であるから、期限前であっても市場で自由に処分することができ、発行者である控訴人がその占有を取得していない限り、相殺をしたとしても所持人に対抗できないもので、控訴人としては、担保として債券の占有を取得するまでは相殺を期待できないものというべきである。本件においては、右相殺時において、本件担保約束に基づく供与により、控訴人がその占有を取得してはいるが、右原因行為が否認される以上は、右利付興業債券に表章された債権を受働債権とする相殺は、実質的に本件担保権の実行と同視し得るものとして、その効力が生じないというべきであるから、控訴人の相殺の抗弁のうち、利付興業債券額面一〇億円に関する主張は理由がないというべきである。

九 そこで再抗弁について検討する。

前記認定の事実からすると、控訴人は、a銀行等他行における一連の架空預金事件が発覚し、これが新聞報道されるようになった平成三年七月二五日ころから、破産者の東信定期が架空預金ではないかとの疑念を抱き、同月三〇日の破産者からの電話でその疑いを確実にしたものと認められるところ、乙第一九号証の3、4と弁論の全趣旨によると、被控訴人が再抗弁で主張する(1)ないし(4)の四口の自由金利型定期預金は、同月二九日から同年八月一日までの間に預け入れがなされたものと認められる。しかし、控訴人は、銀行業を営む株式会社であり、その顧客から定期預金を受け入れることは通常の業務に属することであって、破産者が危機的状況にあるからといって、その申し入れによる預金を受け入れることを拒む理由はなく、控訴人が、破産者に、その倒産時に相殺に供する目的で無理に右各預金をさせたことを認めるに足りる証拠はないから、相殺の受働債権である自由金利型定期預金の預入日が、控訴人において破産者の危機的状況を知った後であることだけから、これらの定期預金債権を受働債権とする相殺が、権利の濫用に当たるということはできない。」

10  原判決四三頁四行目の「七」を「一〇」と、同五行目の「危機否認」から同八行目の「なお、」までを「控訴人の抗弁1、2は理由がないから、否認権行使に関しては、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人は、破産者の本件各行為を、破産法七二条四号に基づき否認することができるというべきである。そうして、」とそれぞれ改め、同一〇行目の「本件担保財産」から同四四頁五行目末尾までを、次のとおり改める。

「否認された行為によって受け取った物が、第三者に譲渡されるなどして返還義務者の手中に存在しない場合には、当該目的物に代えてその処分時の価額の償還を求めることができるというべきである。そうして、否認の効果としての原状回復義務は、不当利得の返還義務と共通の法的性質を有するものと解することができるから、否認の場合においても、民法七〇四条の類推適用により、悪意の受益者とみるべき否認行為の相手方は、右処分価額に処分時からの利息を付して返還すべき義務を負うものであり、その否認の対象となる行為が商人間で行われた場合には、反証のない限り、処分により取得した金員が商行為に利用され得るものと認められるから、その利率は商事法定利率によるべきであると解するのが相当である。

したがって、本件否認により、被控訴人に対し、本件担保財産の返還に代えて、処分価額相当の金銭合計九七億一八二三万四七五八円及びこれに対する処分の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による法定利息の支払義務が控訴人に生じるところ、前記自由金利型定期預金一三口額面合計五億三六一九万一九四六円については、相殺により消滅したものと認められるから、結局、被控訴人の請求は、償還金として九一億八二〇四万二八一二円及びこれに対する処分の翌日である平成三年八月一六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による法定利息の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余を失当として棄却すべきである。」

二  よって、右と異なる原判決は相当ではないから、これを右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 奥田孝 宮城雅之)

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